第16章 恐竜の絶滅について
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鳥は恐竜の子孫だけれど
恐竜の化石は約2億3000万年前から約6600万年前の地層から発見される 恐竜は約6600万年前に絶滅したと考えられていた
近年では鳥は恐竜の生き残りであり、恐竜は絶滅していないと考えられるようになってきた 鳥と恐竜が似ていることは昔から知られていた
19世紀のマサチューセッツ州では、畑や石切場から、足跡のついた石がしばしば発見されていた
地元では「七面鳥の足跡」と呼ばれており、アマースト大学の地質学者であったエドワード・ヒッチコック(1793~1864)も、その足跡をコウノトリかサギのような鳥の足跡だと考えた ただ、その足跡は非常に大きく、40センチメートルを超えるものさえあった
1860年になると、ドイツのゾルンホーフェンで、始祖鳥の羽毛の化石が発見された このように鳥と鳥類の類似性には多くの人が気づいていたし、ハクスリーにいたっては、鳥を恐竜の子孫とまで考えていた
恐竜には鎖骨がない?
その後、恐竜と鳥類が近縁であるという説はいくつかの理由で人気がなくなっていく
鳥類では左右の鎖骨が融合して1本のV字型になり、このような鎖骨を叉骨という
叉骨は翼を動かすときにバネの役目を果たすので、鳥類が飛行するために重要な骨
ともあれ叉骨は鎖骨の一種なので鳥類には鎖骨があるといえるが、恐竜には鎖骨が見つからないことから、1926年にデンマークの元医学生であった画家、ゲルハルト・ハイルマンが「鳥の祖先は恐竜ではない」と主張する著作を発表した 恐竜の祖先と考えられる槽歯類には鎖骨があることを根拠に、槽歯類から鳥類と恐竜という2つの系統が別々に進化して、鳥類では鎖骨が融合して叉骨となり、恐竜では鎖骨が失われれたと考えられるようになった ハイルマンの説は半世紀以上も影響力を持ち続けることになる
実は、ハイルマンの主張より前の1923年に記載されたオビラプトルという獣脚類の標本には鎖骨があったが、当時は他の部位の骨と考えられていた また、ハイルマンの著作が出た後の1936年には、セギサウルスという小型の獣脚類に鎖骨があると報告した論文も出されたが、あまり注目されなかった その後、恐竜にも鎖骨があることが広く知られるようになり、融合した叉骨をもつ恐竜(ジュラ紀のアロサウルスなど)がいることもわかってきた つまり、叉骨は飛行とは関係なく進化したもので、鳥類は既にあった叉骨を飛行のために転用したようだ
四肢動物の指の基本は5本
ただし初期の四肢動物は除く
5本から減ることはあっても経うることはない
鳥の前肢の指は3本指
ニワトリの発生などの研究から、この3本指は5本指中の第2指と第3指と第4指に相当すると考えられていた 一方、鳥の祖先の候補とされた、獣脚類の前肢もたいてい3本
絶滅しているので指の発生過程を観察することはできない
しかし、原始的な獣脚類には、指が5本あることが知られていた
その5本は同じくらいの大きさではなく、第4指と第5指は小さく退化していた
したがって、獣脚類では第4指と第5指がなくなって、残りの3本が残ったと考えるのが自然
そうなると、鳥と獣脚類では残った指が違うことになる
したがって、鳥は獣脚類の子孫ではないと考えられたわけだ
しかし、21世紀になると東北大学の田村宏治(1965~)らによって、ニワトリの指の発生が詳しく調べ直され、鳥の3本の指は獣脚類と同じく第1指~第3指であることが明らかになった 化石の年代
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腕や体には羽毛が生えていたが、前肢は普通の腕であった 羽毛恐竜の化石は、全て白亜紀(約1億4500万年前~6600万年前)のもの 始祖鳥が生きていたのはジュラ紀(約2億100万年前~1億4500万年前)で白亜紀よりも前 鳥が羽毛恐竜から進化したのであれば、羽毛恐竜は始祖鳥よりも前に出現していたはず
もちろん、羽毛恐竜の一部が鳥に進化した後も、それ以外の羽毛恐竜は生き残っていたかもしれない
でも、始祖鳥よりも古い羽毛恐竜の化石が全く見つからないのは不自然ではないだろうか
しかし、その後始祖鳥よりも古いと考えられるジュラ紀の地層から、アンキオルニスという羽毛恐竜の化石が発見された このように、鳥が恐竜ではないという説は、現在では否定されている
さらに、鳥と恐竜の骨や卵殻を比較することによって、他の動物にはない共通点が何十個も報告されている
羽毛はいつ生まれたか
恐竜の最古の化石が発見されるのは三畳紀後期で、約2億3000万年前 三畳紀は約2億5200万年前~2億100万年前の時代なので、2億3000万年前といえば三畳紀の前半に入る
三畳紀は約5100万年間
前期はそのうちの約500万年間で全体の10分の1もない
この時代の地層から数種の恐竜化石が発見されているが、代表的なものはエオラプトル 全長約1メートルで、二足歩行をしていた恐竜
尾の先まで1メートルなのでそれほど大きくはなく、中型犬くらいだろう
直接的な証拠はないが、エオラプトルは羽毛を持っていたかもしれない
恐竜は大きく2つのグループに分けられる
羽毛を持つ恐竜の多くは獣脚類だが、鳥盤類の中にも羽毛をもつものがいくつか知られている
羽毛はすべての生物の中で、恐竜と鳥にしか見られない、かなり特殊なもの
特殊なものが何度も進化することは比較的考えにくい
もしも羽毛が一度しか進化しなかったとすれば、それは竜盤類と鳥盤類が分かれる前の、両者の共通祖先で進化したことになる
つまり、恐竜は最初から羽毛を持っていたということ
翼竜は恐竜ではないが、恐竜に近縁な生物
その翼竜の1種であるソルデスには体毛があったことが報告されている https://gyazo.com/36335c31c1d4d73297462425a5d6e259
さらに、中国で見つかったジュラ紀の翼竜の化石に、羽毛のような構造があったという報告もある
これらの翼竜の体毛や羽毛が、恐竜の羽毛と同じ起源をもつかどうかはわからない
しかし、もしも両者の起源がおな人ら、羽毛の起源は、竜盤類と鳥盤類の共通祖先からさらに遡り、恐竜と翼竜の共通祖先まで古くなることになる
恐竜にとっての羽毛は、私達哺乳類にとっての毛のように、一般的なものである可能性は高そうである
恐竜の羽毛と哺乳類の毛
羽毛は寒さをしのぐのに使えそうだ
羽毛は体温調節のために進化した可能性が高い
だが、恐竜には羽毛を持たないものが結構いる
竜盤類は、さらに獣脚類と竜脚類という2つのグループに分けられる
竜脚類は首や尾が長く、植物食の恐竜が多いグループ
竜脚類の化石からは、今のところ羽毛の証拠が見つかっていない
体温は、体が大きいものほど一定に保ちやすい
体が小さければ、体積に比べて表面積が相対的に大きくなり、体から熱が逃げやすく成る
したがって、体温調節のために羽毛が必要なのは、小さな恐竜
獣脚類の中では小さなものに羽毛が多く、巨大な竜脚類には羽毛がないのは、そのためだろう
哺乳類も、ゾウのように大きな哺乳類にはほとんど毛が生えていない ただし、これには例外がある
ユウティラヌスは寒いところに住んでいた可能性があるので、体が大きくても羽毛が必要だったのかもしれない
哺乳類でも、マンモスのように寒いところに住んでいたものは、体が大きくても全身に毛が生えていた 羽毛や毛の断熱効果が役に立つのは、体温と周囲の温度が違うときだけ
羽毛を持っていた恐竜が恒温動物であった可能性は高いだろう
羽毛の別の役割としては、繁殖行動の一つとして求愛のディスプレイに使われた可能性がある https://gyazo.com/3bfe887292a4b20e17edfc2ae9cb4107
成体になると腕に羽毛の翼ができる
この翼は子どもにはないし、飛ぶには小さすぎて役に立たないので、オスがメスに求愛するときのディスプレイに使われていたのではないかと考えられている
ちなみに、羽毛を求愛のディスプレイに使うことは、現生の鳥類でもしばしば観察されている
鳥が恐竜に見えてくる
鳥の定義としてよく使われているのは「始祖鳥とイエスズメを含む単系統群」という定義 「始祖鳥」と「現生の鳥」と「遺伝的に始祖鳥と現生の鳥の中間の生物」と「始祖鳥の子孫」が鳥ということになる
この定義からはっきりとわかることは、始祖鳥は鳥だということ
始祖鳥は現生の鳥とは違って、口には歯があるし、翼には3本の指があるし、尾には長い骨がある
でも、立派な翼を持っているし、羽毛は中心を通る羽軸の左右で非対称になっている風切羽で、これは飛行するのに便利な羽
おそらく始祖鳥は滑空するだけでなく、ちゃんと飛行できたのだろう
つまり、始祖著は恐竜と鳥の中間的な形態をしている
恐竜と鳥の中間的な化石は始祖鳥の他にもたくさん見つかっている
その形態の違いは連続的で、どこからが鳥で、どこからが恐竜か、線を引くのは難しい
そこで、とりあえず始祖鳥は鳥だと決めて、始祖鳥を境目にした
逆に言えば、形態の特徴で恐竜と鳥を区別するのは難しい
白亜紀に生きていたオビラプトルという獣脚類の恐竜は、巣の中に卵を産むと、その上に座って卵を温めた 羽毛の生えた体で卵を温める姿はほとんど鳥
やはり白亜紀の獣脚類であるメイという恐竜は、首を後ろに伸ばして、頭を背中の上に載せて休んでいた化石が発見された ティラノサウルスの化石からは羽毛が見つかっていないので、もし羽毛があったとしても少なかったのだろう
でもティラノサウルスの周りには鳥のような姿をして、鳥のような行動をする恐竜がたくさんいたのだ
その中には鳥のように飛行する恐竜さえいただろう